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【連載コラム|株主総会にみるコーポレート・ガバナンス】株主総会シーズンは9月に?(第4回)

 

1. 有報の株主総会前の開示

2025年3月28日、金融庁は、「株主総会前の適切な情報提供について」と題した金融相名義の文書を全上場企業の代表者宛に送付しました。その文書では、有価証券報告書(有報)は「投資家が意思を決定するにあたって有用な情報が豊富に含まれている」と指摘したうえで、「上場会社は投資家が株主総会の前に有報を確認できるよう、できる限り配慮することが望ましい」とし、有報を株主総会の前の望ましい時期に開示するように求めています。まず、この背景について簡単に押さえておきましょう。

そもそも、日本では制度上、有報は株主総会後に提出するものとされていました。これは株主総会で報告し承認された計算書類などを有報に添付するルールがあったためです。しかし、会社に積極的な情報開示が求められるようになる中で、2009年に内閣府令が改正され、株主総会の前に有報を開示できるようになりました。

制度上、有報を株主総会の前に開示できるようになったものの、改正後の2010年3月期に、株主総会の前に有報を開示した企業は10社(0.4%)にとどまりました。株主総会の前に有報を開示するには、会社の作成期間や監査法人による監査期間の大きな見直しが必要であるため、当時、実務に定着するには相応の時間がかかるとみられていました。

それから10年以上が経ちましたが、いまでもその状況はほとんど変わっていません。2023年度に有報を株主総会の前に開示した会社は57社(1.5%)にとどまるのが現状です(うち、1週間以上前に開示したのは18社)。ただし、このような慣行は、日本の会社にとっては当たり前かもしれませんが、欧米の会社に目を向けると、実はそうではないことがわかります。

2. 欧米における開示の状況

欧米の会社では通常、決算日後に、日本の有報にあたる年次報告書をまず開示し、その後に株主総会を開催します。たとえば、アマゾンは、2023年12月31日に決算日を迎え、2024年2月22日に年次報告書を提出し、5月22日に株主総会を開催しています。

このような「決算→年次報告書の開示→株主総会」という流れは、アマゾンに限られているわけではありません。決算日後2カ月程度で年次報告書を開示し、その開示から3カ月程度後に株主総会を開催することが欧米の会社では一般的です。年次報告書を先に開示し、一定の期間を経て株主総会を開くので、必然的に株主総会の時期は遅くなります。

一見、日本のように株主総会を決算日後すぐに開催するほうが、情報開示の観点から望ましいようにも思えますが、実はそうとも限りません。有報には、財務情報が詳細に記載されているだけでなく、気候変動や人的資本などのいわゆる非財務情報も盛り込まれていますが、株主総会の招集通知には、そうした情報は含まれていません。また、監査法人による監査を経ているため、信頼性も高いです。このように量も質も優れている有報は、議決権を行使する際の重要な判断材料になります。

そうであるにもかかわらず、現行の日本の会社の開示スケジュールでは、有報をもとに議決権を行使できません。機関投資家を中心に投資家が不満を募らせるのも無理もないでしょう。有報を十分に読み込んだうえで議決権行使を検討するとなると、少なくとも株主総会の1カ月程度前に有報を開示するのが望ましいとされています。

3. 株主総会シーズンは9月に?

前回にお話ししたように、日本の会社のほとんどは、定款で決算日を基準日として、そこから3カ月以内に総会を開いています。この基準日を後ろ倒しすれば、3月期決算の会社でも7月以降に株主総会を開くことができます。基準日を決算日と一致させているのは、あくまで実務上の慣行であり、現行法上、基準日を後ろ倒しすることに何ら制約はありません。

たとえば、ジョイフルは2018年に決算期を12月末から6月末に変更した際に、株主の議案検討期間の拡大や情報開示の準備、監査期間の確保などを目的として、基準日を8月末とし、株主総会を11月に開催するようにしています。

もちろん、有報の開示を前倒しすれば、基準日を後ろ倒ししなくてもよいかもしれません。しかし、有報は監査法人による監査も経なければならないため、その前倒しには実務上の限界があります。基準日をずらさずして、株主総会の1カ月前に有報を開示することは難しいといえるでしょう。

多くの会社が、基準日を後ろ倒しするようになれば、いまは6月である株主総会シーズンも後ろ倒しされることになるでしょう。有報の作成時期を現状のままとし、その開示から欧米の会社と同じ3カ月程度後に株主総会を開くとすれば、6月に有報を開示し、9月に株主総会を開くことになります。(下図)。そのような会社が増えていけば、株主総会シーズンは6月ではなく9月になるかもしれません。

もちろん、これまでの慣行に合わせて、人事などさまざまなスケジュールが組まれているといったこともあり、3カ月も株主総会を後ろ倒しにすることは難しいかもしれません。そうではあるものの、株主が有報を基に議決権を行使できるようにすることは、株主にとっては重要なことであり、その重要性を否定することはできません。

有報を読み込んだうえで議決権行使を検討するには、少なくとも株主総会の1カ月程度前の開示が望ましいとされています。9月とまではいかなくても、1カ月後ろ倒して7月に開催するだけでも、株主総会は、より建設的な対話がなされる場になるでしょうし、今後そのような場になっていくことが期待されているのです。(終わり)

 

 

本連載は、慶應義塾大学の内田大輔教授(2024年度から「経営戦略コース」のグループ指導講師を担当)に執筆いただき、生産性新聞に掲載された記事です。

生産性新聞2025年6月15日号:連載「株主総会にみるコーポレート・ガバナンス」掲載分

内田 大輔

慶應義塾大学 商学部 准教授

博士(商学)。九州大学大学院経済学研究院講師・准教授、慶應義塾大学商学部准教授を経て、2025年より現職。専門はコーポレート・ガバナンス論、経営戦略論。著書に『はじめよう! 経営学入門』(有斐閣)など。

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