
経営アカデミーグループ研究
Re:KIDS
~すべての子どもに豊かなつながりを~
(2025年度 イノベーション・デザインコース Cグループ)
1. 社会課題から事業を構想―「子どもの孤独」設定 背後の構造にも視点展開
社会課題を起点に、新規事業を構想する―。日本生産性本部経営アカデミーの「イノベーション・デザインコース」では、既存事業や技術に依らない発想を通じて思考の転換を促している。2025年度は異業種16人が参加。Cグループは「子どもの孤独」をテーマに議論と検証を重ねた。参加者は課題の再定義から構想の収束までのプロセスを通じ、事業創出につながる視点を獲得した。
2. 社会課題起点で構想するプロセス
本コースは、社会課題の解決を起点に新規事業を構想する力を養う。既存事業や技術ではなく、「どのような社会を実現したいか」という視点から出発する点に特徴がある。
参加者は自社の前提から離れ、社会構造を俯瞰し将来像を描き、現在へ引き戻すバックキャスト思考で課題と事業を結びつける。
2025年度は16人が参加し、A~Dの4グループに分かれて検討を進めた。メンターが伴走し、論点整理と視点転換を促した。
各グループはそれぞれ異なる社会課題に向き合い、独自の構想を磨き上げていった。
社会課題を起点に議論を重ね、構想を磨いたCグループのメンバー
千嶋憲治氏(ZACROS)
現場の制約と構造的課題のギャップに着目
佐野朋美氏(ライオン)
個別性の高い課題領域への対応の重要性を指摘
村山希氏(ジーエルサイエンス)
相談経験の重要性と子ども期の影響を示唆
峯崎雄也氏(雪印メグミルク)
「相談できない状態」という課題の再定義を提示
3. 子どもの孤独を再定義する
その中でも、社会的関心が高く将来への影響も大きいテーマとして、Cグループの検討を取り上げる。同グループは「子どもの孤独」をテーマに設定した。
雪印メグミルクの峯崎雄也氏、ジーエルサイエンスの村山希氏、ZACROSの千嶋憲治氏、ライオンの佐野朋美氏の4人が、異なる領域の知見を持ち寄り課題に向き合った。
当初は食や栄養から検討を始めたが、議論を重ねる中で課題の背景にある構造へと視点が移った。
転換点は「孤立」と「孤独」の切り分けである。峯崎氏は「誰にも相談できない状態に課題がある」と語る。
村山氏は「相談する経験は自然に身につくものではない。機会がなければ、その後も行動として定着しない」と指摘する。佐野氏も「個別の状況に応じた関わりが求められる領域だと感じた」と振り返る。
4. 現場の制約から解決策へ
子ども支援団体へのヒアリングでは、人手不足という現実が明らかになった。
千嶋氏は「相談相手を求めているが対応できる人手が不足している」と語り、佐野氏も「個別対応には限界がある」と指摘する。
この構造的ギャップを踏まえ、AIを活用した対話型の仕組みを検討した。子どもが日常的に話しかける存在を設け、相談行動を習慣化する。ただし問題解決ではなく、親子のコミュニケーションを補完する役割とした。
峯崎氏は「AIは解決手段ではなく、関係性をつなぐ存在」と位置づける。設計では親と子の相反するニーズが課題となったが、千嶋氏は「誰のための仕組みかに立ち返った」と語る。
5. 思考の転換が事業を生む
最終的に構想は「相談習慣の形成」に収束した。佐野氏は「目的に立ち返ることで整理された」と語る。
参加者は、「課題から発想することで価値の捉え方が変わった」と口をそろえた。
峯崎氏は「見えるものが変わった」と語り、村山氏は「価値として再構成する必要性を実感した」と話す。千嶋氏は「異業種の視点で前提が崩れた」と振り返り、佐野氏も「一人では到達できない思考に至った」と語る。
問いを立て直す議論の現場
社会課題起点で考えることで、技術や経験は「誰のために何を解決するのか」という意味を持つ。本コースは問いの立て方を鍛える場であり、イノベーションは課題に向き合い続けた先に生まれる。
課題の定義が変われば、解決策も変わる。表層的な現象に対処するのか、それとも構造に踏み込むのかによって、事業の方向性は大きく異なる。
今回の検討でも、当初のテーマから一歩踏み込み、問題の捉え方を問い直すことで、初めて解決の輪郭が明確になった。
イノベーションは技術からではなく、「問い」から始まる―。本コースが示しているのは、その原点である。
6. 思考の型が身につく研修―メンターが語る14年続く理由
日立コンサルティングシニアスペシャリストの水谷世希氏は、本コース立ち上げ当初から関わる。「14年続いている理由は明確で、社会課題ドリブンとバックキャスティングの軸がぶれていないことにある」と語る。
一般的な研修が知識やスキル習得を目的とするのに対し、本コースは「自らの問題意識から出発し、議論を重ねながら構想を磨く点に本質がある」。試行錯誤のプロセスが学びとなる。
「社会課題は自分ごととして捉えることが重要。一人の具体的なペインから未来像を描き、現在へ引き戻す。この思考の転換が最も大きい」と指摘する。 「一生使い続けられる思考の型が身につく。イノベーションは特別な才能ではなく、自分にも起こせると実感できる点に価値がある」と話している。
【本稿について】
産学協同のビジネススクールを運営する日本生産性本部の経営アカデミーでは、参加者による複数名のグループごとに「グループ研究」に取り組んでいます。本連載は、2025年度の研究がどのようなプロセスを経て進められたのかを紹介する、生産性新聞掲載の記事です。
生産性新聞2026年5月15日号:「社会課題から事業を構想 経営アカデミー イノベーション・デザインコース」掲載分
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