
1. 近くて遠い存在、株主総会を知る
そろそろ2025年6月の株主総会シーズンが始まります。株主総会に向けた準備を進められている方もいらっしゃるかと思います。
株主総会は、株式会社では事業年度に少なくとも1度は必ず開催されます。そのため、株式会社で働かれている方は、ご自身の勤務先の株主総会が毎年どこかで開催されていることになります。とは言うものの、株主総会の運営業務にかかわっているわけでもなければ、株主総会が何をする場であるのかご存知ない方も多いのではないでしょうか。
本連載では、この近くて遠い存在とも言える株主総会が、コーポレート・ガバナンス(会社の経営を担う経営者の規律づけ)において果たす役割について考えていきます。
第1回である今回は、そもそも株主総会は何をする場なのかをお話していきます。
2. 株式会社の特徴は「所有と経営の分離」
株主総会を理解するためには、株式会社の特徴のひとつである所有と経営の分離について理解しておく必要があります。所有と経営の分離とは、資金を出す人が、会社の経営を担うことを前提にしておらず、資金の提供者と使用者が分かれていることを言います。
所有と経営を分離し、資金を出す人(株主)とその資金を使って会社を経営する人(経営者)が別の人になることで、資金を持ち財務リスクを負える人が資金を出し、経営スキルを持つ人がその資金を使ったビジネスの経営を担うという適材適所を実現できるようになります。
ただし、経営者は株主とは別の人になるため、ときには株主が思っていたような経営がなされないことも起きるでしょう。そのような状態が続けば、経営者に不信を抱く株主が出てきても不思議ではありません。
そこで、株主の経営者に対する不信を払拭するために必要となるのが取締役(会)になります。取締役会を設置しない株式会社もありますが、上場会社などでは設置が義務づけられています。ここでは、上場会社を念頭に、取締役会を設置する会社に注目します。
取締役会は、すべての取締役から構成され、代表取締役と呼ばれる経営者を取締役会の中から選定し、その経営者による経営を監督します。経営者による経営はあくまで、取締役会の監督の下でなされるようになるため、株主は安心して経営者に経営を任せられるようになるのです。
3. 取締役の選任は株主総会の最も重要な役割
このとき、経営者が取締役を選んでいては、株主は安心できないので、取締役を選ぶのは株主となります。この取締役を選ぶ場となるのが、株主の集まりである株主総会になります。したがって、株式会社は、株主総会によって選ばれた取締役の集まりである取締役会が、経営者を選び、その経営を監督する仕組みであるといえます(下図)。
株主総会において、株主は、取締役会が提案する取締役の選任議案に対して議決権を行使することで、その選任に対して賛否を表明できます。株主は、経営者を含む取締役の仕事ぶりに満足していないとき、その取締役の選任議案へ反対票を投じることで、自身の不満を表明するのです。
取締役の選任は、株主総会の最も重要な役割であるものの、株主総会の役割はそれだけではありません。株主は、取締役の選任のほかにも、会社の重要事項について議決権を有しているだけでなく、会社の経営について取締役に質問したり、自身が会社に望むことを株主総会の議題や議案として提案したりすることもできます。
4. 1000人が一堂に会するNTTの株主総会
ここで、2023年度に日本で1番株主が多かった日本電信電話(NTT)が2024年6月20日に開催した株主総会を見てみましょう。ちなみに、日本で2番目に株主が多い会社は三菱UFJフィナンシャル・グループ、3番目はイオンになります。
NTTには、177万9764名(2024年3月31日時点)の株主がおり、そのうち99%以上は個人株主です。その株主総会は、東京のグランドプリンスホテル新高輪で午前10時から開催され、全体の約0.1%にあたる1277名が出席しています。
1000人に1人の株主しか参加していないと言われれば、少ないような気もしますが、それでも1000人以上が一堂に会する場となっています。このとき、株主総会の会場に足を運ばなくても、事前に書面やインターネットを通じて、取締役の選任などへの議決権の行使はできます。
株主総会の議長を務める島田明代表取締役社長が議事を進行し、まずは2023年度の事業報告などについて説明がなされます。その後、会社から「剰余金の配当」と「取締役10名選任」の二つの議案、1名の株主から「取締役1名の選任」の一つの議案が提案されています。
会社提案の議案は平均で95%以上の賛成率ですべて可決されましたが、株主提案の議案は賛成率5.4%にとどまり否決されています。一般的に、会社提案の議案の賛成率は高い一方で、株主提案の議案の賛成率は低く、可決されることは稀です。
また、株主総会では質疑応答の時間もあります。株主から事前に受け付けた140の質問のうち、特に関心の高い四つの質問(①セキュリティ対策、②NTT法改正、③株価と株主還元、④株主総会に関する情報提供)について、会社側の考えが一括で回答された後、その場で13名の株主から上がった、事業戦略や取締役選任などへの質問に対して、会社側からの回答がなされています。質疑応答も含めて、株主総会は1時間30分に及びました。
会社法の定めにより、株主総会において株主からなされた質問に対して、会社は原則として必要な回答をしなければなりません。そのため、多くの会社では、数百問にもおよぶ想定問答集を作成したり、リハーサルを複数回にわたって入念に実施したりして、早いところでは3カ月以上も前から株主総会に備えています。
今回は、株主総会は何をする場なのかをお話してきました。次回では、株主総会の最も重要な役割である取締役の選任に注目し、どのように株主は取締役の選任議案へ投票しているのかをお話しします。(第2回に続く)
本連載は、慶應義塾大学の内田大輔教授(2024年度から「経営戦略コース」のグループ指導講師を担当)に執筆いただき、生産性新聞に掲載された記事です。
生産性新聞2025年5月15日号:連載「株主総会にみるコーポレート・ガバナンス」掲載分
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