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コラム

組織変革の羅針盤⑥~組織内「標準」の三階層を意識せよ


 

1. 日本企業における組織内「標準」

今回、変革を目指す日本企業が考えるべきこととして、組織内の「標準」について議論したいと思います。

標準と聞くと、「ベータとVHS」のような標準化競争や、ISOのような国際規格を思い浮かべる方がいらっしゃるでしょう。しかしここでは、「組織構成員の意思決定、思考、行動の方向性を揃えるために明文化された組織内のルール・規範」のことを「標準」と呼んでいます。筆者が専門とする国際経営の分野では、本社がマネジメントの標準を定め、それを海外子会社に適用する海外戦略を「標準化戦略」と表現するため、「標準」という言葉を使っています。一般に日本企業は「標準化戦略を取っている」と言われ、海外子会社に日本のマネジメントのやり方を踏襲させる傾向が、欧米企業と比較して強いとされてきました。

しかしここで改めて考えたいことがあります。海外に踏襲させている「標準」の具体的な内容を、日本側は明確に認識しているのでしょうか?企業人の多くは、所属する企業特有の規範を理解しています。そうした規範を共有しているからこそ、社員間のコミュニケーションが円滑になりますし、信頼して誰かに権限を委譲できます。しかし規範がどこまで明確な標準として、現場に落とし込まれているでしょうか?平たく言えば、文章において明文化されているでしょうか?筆者が調査した範囲では、この明文化に日本企業は弱みを抱えているように見えます。「言わなくてもわかるだろう」というような暗黙的な共有を重視してきたため、自分たちの標準を曖昧なままにしているように見えます。

もちろん近年は、パーパス、ミッション、バリューといった、企業の方向性や価値観を明示する企業も増えています。しかし、ここで議論している標準は、より具体的な意思決定や行動の規範も含むものです。例えばキーエンスは、徹底したロールプレイを通じて営業のやり方を社員に教育していますが、これは営業の「標準」と言えます。自社の目標を実現するための勝ちパターンを、標準として徹底しているからこそ、キーエンスは特定の個人に依存することなく、安定して強いとも解釈できます。

 

2. 標準と組織変革

このような標準は組織変革においても重要です。なぜならば、標準があるからこそ、自社の現状が把握できて、望ましい姿とのギャップが明確になるからです。標準がないままでは、何を変えるべきなのかの特定が難しくなります。また、標準があるからこそ、変革時のメンバーの間でのコミュニケーションが円滑になります。標準が暗黙的なままだと、時間が経つと各部署に「方言」のような標準ができてしまいます。

こうした方言は、組織全体を一つの方向に動かす際の妨げになりえます。すなわち、変革を目指す会社は、自分たちが同じ方向を向くための基盤があるのかの確認から始める必要があるのです。

もちろん「標準化は人々の創造性を奪う」と考える方もいるでしょう。これは部分的には正しいです。しかし、標準がない状態で新しいものが出てくるかというと、必ずしもそうではありません。むしろ共通の認識がない中で社員が好き勝手やっている状態では、結局変革の方向性がまとまらなくなることもあります。「守破離」の言葉の通り、守るべきものがあるからこそ、そこから脱して、新しいものが出てくることもあるのです。また、「標準のようなルールを若い人が嫌う」という主張もあります。これも必ずしも正しくありません。若い人が嫌なのは「暗黙的なルールを後出しで出されること」であり、ルールが嫌なわけではありません。むしろ標準を事前に明示してもらえると、その会社が合うか合わないかを早期に判断できるので、お互いのミスマッチを防ぐことができます。

 

3. 標準の三階層を意識せよ

では、どのように標準を作ればよいのでしょうか。筆者は標準を三つの階層に分けて理解することが有用であると考えています。それは「絶対標準」「モデル標準」「推奨標準」の三つです。絶対標準とは、組織内メンバーが絶対に守らなければならない標準です。モデル標準は、基本的に従うことが求められますが、合理的な理由がある場合は守らなくても良い標準です。最後の推奨標準は、単にお勧めされている標準です。

標準を作る際、モデル標準や推奨標準をうまく使うことがポイントとなります。筆者は海外展開をうまく行っている企業は「モデル標準」の使い方が上手いという仮説を持っています。例えば味の素は、海外展開において三現主義という考えを前提にしつつも状況に合わせて柔軟に対応しています。モデル標準を、海外という新環境において何をどこまで変えるべきかを評価する際の一つの物差しとしているのです。

元々日本人は暗黙的な阿吽の呼吸を大事にする国民と言われてきました。しかし自分たちの標準を暗黙的なままにしておくと、海外の方はもちろん、日本人同士でも見解の相違が生まれ、変革どころではなくなります。標準を作るのは簡単ではありませんが、今一度標準の重要性に思いを馳せていただけると幸いです。(終わり)

 

 

本連載は、東京大学大学院の大木清弘准教授(2017年度から2024年度まで「経営戦略コース」のグループ指導講師を担当)に執筆いただき、生産性新聞に掲載された記事です。

生産性新聞2024年11月5日号:連載「組織変革の羅針盤」掲載分

大木 清弘

東京大学大学院 経済学研究科 准教授

2007年東京大学経済学部卒業。08年同大学大学院経済学研究科修士課程修了。11年同大学大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。12年同大学より博士(経済学)。関西大学商学部助教、東京大学大学院経済学研究科講師を経て、20年より現職。専門は国際経営論、国際人的資源管理論。2009年国際ビジネス研究学会優秀論文賞、15年国際ビジネス研究学会学会賞。著書に『コア・テキスト国際経営』(新世社)など。

 

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