
1. ミドル・マネジャーの危機
組織変革について、これまで王道のやり方やトップ・マネジメント(以下、トップ)の在り方について議論してきました。次に、中間管理職とも呼ばれる「ミドル・マネジャー(以下、ミドル)」の在り方について議論していきたいと思います。
現在、日本において、ミドルには逆風が吹いています。グローバル競争が激化し、終身雇用制度が崩れていく中で、ミドルに昇進し、会社に忠誠を示しても、将来が安泰ではなくなっています。また、コンプライアンスの観点から、ミドルは上司だけでなく、部下にも気を使うストレスフルな仕事になっています。こうした状況に置かれたミドルを見て、若手が管理職を目指さなくなる動きも現れています。心理学に「中年(ミドル・ライフ)の危機」という言葉がありますが、現在の日本は「ミドル・マネジャーの危機」と呼べる状態があるといえます。
2. 組織変革におけるミドルのあり方
しかし、組織変革に関する既存研究では、ミドルの重要性が指摘されています。欧米の研究では、ミドルはある時は変革の抵抗勢力として、ある時は変革の主役として捉えられてきました。日本企業を対象にした研究では、神戸大学名誉教授の金井壽宏先生が「変革型ミドル」に関する研究をされたことを筆頭に、ミドルの主導的な役割に焦点が当たることが多かったように思います。ただその一方で、ミドルが社内の合意形成などにリソースを取られてしまった結果、その強みが発揮できなくなっているという指摘も、一橋大学の研究チームが行った「組織の重さ」研究でなされています。いずれにしても、組織変革の成功要因の一つとして、ミドルのあり方に注目がされています。
では、組織変革を成功させるためのミドルのあり方とはどのようなものでしょうか?ここでは、誰が組織変革のイニシアチブを握るかで二つのパターンがあります。一つ目は、トップが組織変革の起点となる組織変革の場合です。この場合、ミドルはトップの思惑を理解し、それを自分の部下に落とし込むことが求められます。この時のミドルは、トップの伝道師としての役割を担うといえます。二つ目は、ミドルが自らイニシアチブを取って、組織変革を主導するケースです。この場合のミドルは、「トップからの支援を引き出すこと」と「フォロワーのコミットメントを引き出すこと」の二つに注力することになります。トップのお墨付きを得ていない場合、自らトップと交渉し、経営資源を獲得することが求められるのです。
もちろん、「トップからの支援を引き出す」ことは、トップ主導の組織変革でも必要です。トップの指示で活動を始めたにもかかわらず、急にはしごを外されるケースもあるからです。はしごを外されないためには、トップの注目を集め、プロジェクトに必要なリソースを獲得し続けることが求められます。急にはしごを外すトップにも問題はあるかもしれませんが、ミドルにもトップの注目を集める努力をする必要があるのです。
3. トップの「アテンション」を引くためのミドルの心構え
では、トップの「注目」をどのように集めればよいのでしょうか。この議論に有用な一つの視座が「アテンション・ベースト・ビュー(ABV)」と呼ばれる考え方です。これは意思決定者のアテンション(注意・注目)の配分によって組織・企業の意思決定や行動が変わるという考え方です。このABVに基づき、ミドルがトップの注目を集めるための心構えを議論してみたいと思います。
まず、トップの認知プロセスを意識することです。トップの物事の見方に合わせるほど、注目は集めやすくなります。そのため、トップの判断基準や、今何を求めているかを理解したうえで、その認知に乗りやすい形で活動を行うことが必要になります。例えば、トップが定量的な成果を重視する人であれば、定量的なデータでアピールすることが有効でしょう。また場合によってはトップの認知プロセスを変える活動を行うことも有効です。トップが重視しているKPIに対して、異なるKPIを提示し、その重要性を理解させ、変革の必要性を説く、というようなアプローチです。
次に、トップが自分たちを認知してくれるような好意的状況を作り出すことも重要です。これはゴマすりをしろというのではありません。目に見える成果を出すなどして、組織内で一目置かれる存在になることで、アテンションを集めるということです。または、外部から自分や自組織の評判を上げることも有効でしょう。外郭団体から表彰されたり、マスコミの取材を受けたりすることで、トップのアテンションを集めることも可能です。
ただし変革を主導したミドルが、労力に見合った対価を得られなければ、次のミドルは現れません。「ミドルの危機」と言える状態にある現代だからこそ、変革を主導したミドルが報われる状況を意識的に作り出すことが、トップには求められると言えます。(第6回に続く)
本連載は、東京大学大学院の大木清弘准教授(2017年度から2024年度まで「経営戦略コース」のグループ指導講師を担当)に執筆いただき、生産性新聞に掲載された記事です。
生産性新聞2024年9月25日号:連載「組織変革の羅針盤」掲載分
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