日産自動車のV 字回復のエンジンとなったクロスファンクショナルチームをリードし、その改革手法を横浜マリノス(株)においても応用。チーム成績のみならず、観客動員数やグッズ販売など各種の収入を大幅にアップさせ続けている嘉悦朗氏。経営アカデミーでの経験をその後の業務でどのように活かしているのか、お話を伺った。
異業種交流で、いまの自分の相対的な位置関係が明確に
経営アカデミーに参加したのは、日産自動車の人事部で人事企画や各種制度策定を担当していた30 代前半でした。あのときダイバーシティ(多様性)の視点を経営アカデミーで会得したことは、その後の業務に大いに役立っていると思います。
アカデミーではグループで論文を執筆しますが、各メンバーが分担した章をグループ全体で共有し、意見交換すると、いかに各自の執筆した部分が「自社視点」に陥っているか気付かされました。そういった気付きを繰り返す中から、自分の経験や思考の偏り、さらには強み、弱みなど、当時の自分の相対的な位置関係が明確になりました。また、社内のような複雑な人間関係や利害関係が無いので、相手の意見を素直に聞き入れる姿勢も自然と身に付いていきました。
受け継がれている、多様性を受け入れる成功体験
日産自動車のV 字回復に貢献し、私がリーダーの一人としてとりまとめたクロスファンクショナルチーム(CFT)においても、こうした「多様性の尊重」が重要なキーワードでした。社内の各部署からメンバーを集めるCFT のスキームは、ともすれば自部門の立場を強く主張する余り、部分最適に陥るリスクがあります。しかし、このチームには会社を変革するという強い使命感がありますので、自説にこだわらず、メンバー相互の意見を尊重しながら、全体最適を目指して活動します。つまり、多様性を受け入れることが活動のベースになっているのですが、ここに経営アカデミーで得た体験との接点がありました。
私が横浜マリノスの社長に就任してからも、このCFT の手法を使った改革を実行してきました。結果として、観客動員数はJリーグ全体が減少傾向にある中、3年間で10%以上伸ばして来ましたし、グッズ販売にいたっては売上を60% も増加させることができました。この成功体験を通して、社員は自信を回復し、社内が活気づきましたが、こうして振り返ってみると、「多様性を尊重する成功体験」が脈々と受け継がれていることを実感した次第です。
当時同じグループだったメンバーと直接会うことはなかなか叶いませんが、年賀状は今でもすべてのメンバーと交わしています。職場や家庭において同じような成長過程をたどっている仲間からはいろいろな刺激を受けてきました。お互い、何度となく住所や職場が変わってきたのに25 年間ずっと切れずにいるのは、このつながりの貴重さをメンバー全員が共有しているからだと思います。
嘉悦 朗(かえつ あきら)氏
横浜マリノス株式会社 代表取締役社長
1988 年度 人事労務コース修了。経営アカデミーマスター
1979 年日産自動車入社。1999 年クロスファンクショナルチームのパイロットに任命され、組織と意思決定プロセスの改革を担当。2002 年執行役員。以後、V-upプログラム(間接業務の効率化手法)の開発・普及などの責任者を務める。2009年、日産の執行役員と兼務で横浜マリノス㈱の代表取締役に就任。2010 年、横浜マリノス㈱の代表取締役社長に専念し、現在に至る。
※所属・役職は2013年10月24日時点